クオリティオブライフ(QOL)
宇宙の神秘を辿る体験と興奮を、より多くの子どもたちに。「天体観測のハードルを下げる」ニコンとユニステラの挑戦
日本では現在、10名を超える宇宙飛行士が誕生しています。宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに滞在する話題は度々ニュースで報じられ、宇宙に関する仕事も多岐にわたっています。
宇宙に関する仕事をしている人たちの多くは、子どもの頃に宇宙への興味を抱く、なんらかのきっかけがあったといいます。そして、宇宙に広がる天体を自分の目で確かめるという能動的な体験ができたら、宇宙や科学に興味を持つ子どもたちが増える可能性は大いにあるでしょう。
かねてより天文分野の発展を支えてきたニコンは今、宇宙や科学への関心を持つ子どもたちを増やすことを社会的使命として、「天体観測のハードルを下げる」というチャレンジに取り組んでいます。
天文分野の発展を技術で支えてきたニコン
子どもや大人を問わず、天体観測に興味を持つ人は多いでしょう。しかし、天体観測に興味を持っても、実際に経験したことがある人はどのくらいいるでしょうか。「難しそう」というイメージだけで、敬遠している人も多いかもしれません。
©国立天文台
実際、天体観測はハードルが高いと言われています。ある調査では、エントリーモデルの天体望遠鏡を購入した人の9割は、観測したい星を望遠鏡で見つけることの難しさのほか、望遠鏡からのぞいた天体が白いぼやけた点にしか見えず、図鑑でみるように美しく見えないなどの理由で自宅の物置などに入れっぱなしにしてしまうという結果が出ています。
ニコンは、1920年に初めて天体望遠鏡を発売しています。その後も、天文台に設置される大型機、人工衛星搭載の光学系までさまざまな衛星・天体関連機器を製造してきました。2015年には、金星周回軌道への投入に成功した金星探査機「あかつき」のプロジェクトにおいて、レンズや鏡筒など4つの光学系の設計・製造を担い、「あかつき」の金星画像の取得に貢献しています。このように、天文台やJAXA(宇宙航空研究開発機構)等への光学部品の設計・供給のほか、教育機関への光学部品の供給、NASA(アメリカ航空宇宙局)との連携に至るまで、天文分野の発展を幅広く支えてきた歴史があります。
すばる望遠鏡 ©国立天文台
金星探査機「あかつき」©JAXA
そしてニコンは今、コンシューマー向けの天体観測分野にさらに力を入れ、教育分野に貢献しようと取り組みを進めています。
ユニステラ社とタッグを組んだ理由
ニコンがコンシューマー向け天体観測分野に力を入れるべくタッグを組んだのが、2015年に創業し、フランス・マルセイユに本社を構えるデジタル天体望遠鏡のリーディングベンチャー、ユニステラ社です。
ユニステラ社が発売した第1世代製品「eVscope」は、クラウドファンディングで話題となったほか、CES 2018イノベーションアワードを受賞するなど注目を集めています。同社のデジタル天体望遠鏡はGPSで自らの位置を把握し、視野にある天体と内蔵の座標データベースを比較することで、ターゲットの天体を自動で捕捉できる「自律フィールド検出機能」を搭載しています。
2021年7月、ユニステラ社とニコンの間で科学の発展を願う理念が一致し、デジタル天体望遠鏡に関する共同開発基本契約の締結を発表。コンシューマー向け天体観測の分野で革新的なソリューションの提供に向け、取り組みがスタートしました。
両社の技術やノウハウなどを掛けあわせることで生まれた製品が、デジタル天体望遠鏡「eVscope 2」です。「eVscope 2」には、ニコンの映像事業で培った電子ビューファインダー(EVF)の技術をアイピースに採用し、他に類を見ないほど鮮明でクリアな視界を実現しています。
「eVscope シリーズ」の最大のメリットは、初心者でも簡単に天体観測や撮影ができることにあります。スマートデバイス上の専用アプリ「Unistellar」と連動することで、自動で簡単にターゲットの天体をとらえることができます。また、ユニステラ社独自の技術により、光を蓄積させ、周囲が明るい都心のような環境でも銀河、星雲や彗星などの天体を色鮮やかに観測することが可能であるほか、ライブビューで土星の輪、木星の衛星や金星の満ち欠けなどといった惑星や月の構造まで観測することができます。また通常の望遠鏡で観測しようとしても、見つけることが難しい天王星や海王星も簡単に見つけて観測することが可能です。
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実際に「eVscope 2」を使った多くのプラネタリウム職員からは「組み立てが簡単」「スマホで操作できる利便性がよい」「バッテリーで10時間近く駆動するのはすごい」「1度使うと、良さが理解できる」という声があがっているほか、天体観測に関心がなかったユーザーからも「天体観測へのハードルが下がった」「スマホの画面から観測できるのは驚いた」との感想をいただいています。
都市部にてeVscope 2で実際に撮影した星雲の画像。この画像のように天体観測を楽しむことが可能。
ニコンでは、「eVscope 2」の実機を使える場所・機会を増やす取り組みを検討中です。
「eVscope 2」から始まる体験を通じ、「どこでも」「すぐに」「美しい」天体を見ることができれば、天体観測の障壁を下げることにつながるでしょう。
天体観測への興味を広げることで、科学の発展に寄与
天体観測に興味を持つことは、宇宙、科学、物理学への興味につながります。また、地球を惑星の一つとして客観的に見ることは、気候変動問題をより自分ごととして捉えるきっかけにもなるでしょう。さらに、デジタル天体望遠鏡で観測したデータを世界中の天文家と手軽に共有することができることから、市民科学者として最先端の研究に貢献することもできますし、SDGsが掲げる「質の高い教育の提供」にもつながります。
そして天体観測を通して、子どもが宇宙への興味や関心を持つことで、将来的には科学の発展につながることが期待できます。またこのような取り組みを行っていくことは、科学の発展だけではなく、SDGsが掲げる「質の高い教育の提供」の実現も支えることができるでしょう。
©国立天文台
今後も、ニコンが持つ技術のさらなる活用や、先進的な取り組みを行う他企業との協働などを通じ、科学技術の発展に寄与することで持続可能な社会の実現に貢献していきます。
※所属、仕事内容は取材当時のものです。